霧の苗場山
早朝に、道の駅から登山口の駐車場へと移動する。
苗場山の登山口についたが、かぐらみつまたスキー場の町営駐車場は無人だった。
外は雨で、駐車場は水たまりが出来ていた。車の中から見上げると、見事に霧がかかっている。手前にあるトイレしか見えない。
しばらく車のなかで地図を見ながら時間を過ごすことにした。
その間にもう一台の車がやってきた。私の車の横に停めたが、しばらくしても下りてくる気配はない。それはそうか。霧が出ていて周りも見えないし、小雨も降り続いている。同じように、行くか行かざるべきか迷っているに違いない。
1時間ほど車の中から様子を見ていたが状況は変わることはなかった。
雨が強くなる気配はないので、登ることに決めた。
車の外に出て用意をしていると、隣の車の窓が開いた。
今日は苗場山荘に泊まるそうだ。膝の上にはガイドブックが置かれていた。
山荘があるのは知らなかった。ということは、今の段階でここから日帰りするのは自分だけとなるのだと思った。
天候も悪いし、この2日間の山登りでふとももは筋肉痛になっていて、膝も痛い。行けるところまで行くことにした。
苗場山(なえばさん・標高2145m)は新潟県と長野県にまたがる山だ。
今回は、かぐらみつまたスキー場の町営第二リフト駐車場からピストンで往復した。
スキー場のゲレンデにある道を歩いていったが、途中の和田小屋から道に迷った。何度も地図を確認するが、目の前にはゲレンデしかなく、登山道らしきものがない。登りつつ立ち止まって周りを見渡してみるが、霧のなかで見えるのは横に設置されている照明設備のみ。
「おそらくゲレンデが登山道なのだろう」
ゲレンデは歩いて登るには、かなり急角度だったが方角的には合っていた。もし違っていても、ゲレンデにいる限り迷うことはないのでそのまま進む。引き返すときに備えて、途中で立ち止まっては周囲の写真も撮りつつ……。
メインのゲレンデから枝分かれした狭いゲレンデに入ると、草が刈られておらず笹が腰の高さまで生えていて、途方に暮れた。よく見ると、一筋の人が歩いたような形跡があったので、そこを藪漕ぎで進む。
かなり歩いて「やっぱり引き返すか」と思った矢先に、突然登山道に出くわした。「登山道」と書かれた標識が目の前に出てきて笑った。やっぱり間違っていた。おかしいとは思ったが、どうして登り口がわからなかったのだろう。
雨の登山道
登山道に出たものの、そっちはそっちで歩きにくかった。石がごろごろしていて、その上を歩かないといけない。その間を勢いよく水が流れている。雨が降り続いるせいか小川になっていた。水が流れるせせらぎの音を聞きながら登っていく。
途中から木道になったが、こちらも歩きづらかった。不規則に横棒が打ち付けられているだが、その棒のおかげで歩くリズムが乱れる。
次第に膝が痛み出す。加えて太ももも傷んでいるような痛みになってきた。
雨が強くなり、ときおりみぞれが混じる。
また「引き返すべきではないか」という考えが頭をもたげる。
駐車場に人はいなかったし、今日は下手したら、自分ひとりだけが登っているかもしれない。
9合目までくると、時おり雪が混じるようになった。すると、3人連れの年配のグループとすれ違った。元気に話しながら下りていくのを見ていると先行していたのではなく、小屋から出発してきたのだろう。
背に出ると、冷たい風が吹き上げてきた。
葉の落ちた枝に氷がついている。スキー場の樹氷を見たことはあるが、こういうのも樹氷と言うのだろうか。
雪が舞い、さらに視界が悪くなった。足がつりそうな気もするが、もう少しで山頂につくはず。山頂が近づくと湿原になった。山の上に湿原があるのが不思議だ。池塘があったが、それ以外の景色は見えない。足早に木道を進み、間もなく山頂の棒に到着した。記念写真を撮り、即、下山を開始した。
紅葉のベストシーズンだった
9合目付近まで下ると風が収まり安心した。あとは来た道を帰るだけだ。
途中で、グループ2組とすれ違った。時間的に、小屋に泊まるのだろう。
下りでは、雪が降っているおかげで木道の上に雪が溜まり、ツルツル滑った。登るときは横に打ち付けてある木のせいで歩き辛いと思ったが、これがあるおかげで足がすべることがない。横木がない所では派手にすっころんだ。2度目はツイストしながらマンガのようなこけ方をした。
トレッキングシューズのソールが剥がれてしまった。撮影旅行用に買ったものだけど、15年前のモノだから仕方がない。踏んでいるのが、木道の横木。
ソールを靴紐で固定した。今回はヒモの長さが間に合ったが、細引きを用意したほうがいいと思った。
高度が下がってくると、雨は強くなっていたが、霧が少し晴れた。
「上州登山」の旅に出て3つ目の山で初めて、求めていた秋の風景が見られた。
晴れたらもっと素晴らしい風景が待っていただろう。
もう一度晴れた日に登りたいと思った山だった。
(2017年10月4日)