天幕ほしぞら

テントに泊まる登山とロングトレイルの旅

道を見失う|燧ケ岳【百名山】

雨の燧ケ岳

燧ケ岳の登山口にある御池駐車場は1500メートルの標高にある。

麓の檜枝岐村内の気温は10度ぐらいだったが、より寒く感じた。シュラフを2重したら、寒さがすこし和らいだ。

 

目を覚まして時計を見ると5時を指していた。やはり寒い。雨も降っているので、もう一時間だけ寝ることにする。

6時に再度起床。体を起こして外を眺めると、やっぱり雨が降っている。

耳を澄ましてみたが、周りの車からは気配を感じない。車はたくさん停まっているけど、登山客の車ではないのかもしれない。

他の人が動き出すのを待っても仕方ないので、簡単に用意を済ませて7時から歩き出した。

 

 

燧ヶ岳(ひうちがたけ・標高2356m)は福島県にある日本百名山。東北以北の最高峰の火山だ。

今回は御池登山口からの御池ルートをピストンした。

 

 

登山口がわかりにくかったが、駐車場の一番奥にあった。

しかし登山道に入ると、そこは川と化していた。

雨水が音を立てて流れている。苗場山のときよりも激しくて、もはやそこが登山道なのか小川なのかわからない。

しかし私が履いているのはトレラン用のシューズだった。できるだけ水没しないように、ところどころ石を飛んで進んでいく。そうしていると下からの水の侵入はなかったが、それも時間の問題かもしれない。木道脇の笹のしずくや水を跳ね上げたときに、上から徐々に染みてくるのを感じた。

 

雨の登山道

 

上州登山の旅に出てからは雨続きで、苦行のようだ。

土日の山登りでは天気を選べるけど、一度旅に出てしまうと天気を選ぶのは難しい。

雨の時しか雨の経験はできないんだから……

ポジティブに口に出してみるけど、頭のなかは「たまには晴れてくれよ」という不満が渦巻いている。

 

モンベルのOutDryレイングローブ

 

今日は中断日に手に入れたレイングローブを装着して歩いてみた。

モンベルの『OutDry レイングローブ』は防水透湿構造のOutDryを使用した防水グローブだ。74gと軽量で折りたたんで携帯することができる。

オーバーグローブ的な感じなのでフィット感はない。買うときにはそのゴワゴワした素材感が気になったが思ったよりも気にならなかった。気温はそれほど低くはなかったので、素手の上に装着しているとほんのりと温かい。手のひらの生地は厚くできていて、岩をつかむときに安心してつかむことができた。当たり前だが水が染みてくる不安がないのは嬉しい。

 

飛び石を登っていくと、池塘のある湿地が現れた。広沢田代だ。

湿原を抜けると、また登りになり、登りきると2つ目の湿原である熊沢田代が現れる。

 

熊沢田代と俎嵓

 

その後は、ガレ場になった。

今日は誰とも合わない。駐車場には多くの車が止まっていたが、どこに行ったのだろうか。

 

燧ケ岳のガレ場

 

道を見失う

そして、一つ目のピークである俎嵓(まないたぐら)についた。岩のうえに小さな祠があった。それ以外はガスっていて何も見えなかった。

すぐに燧ケ岳の頂上にあたる2356mの柴安嵓(しばやすぐら)を目指すことにする。標識の矢印に沿って進む。

前方には、小高い盛り上がりが見えた。「きっとその向こうが頂上だろう」と思い、斜面を降りていく。

すると、低木の茂みの間から人が現れた。

 

俎嵓の標識

 

「濁流だよ」

と、開口一番その人が言う。

レインウェアがびしょ濡れで、着ているのが重そうに見えた。

「どこから来たのか?」と聞かれたので、「御池です」と答える。

そのあと「どこへ行くのか?」と聞かれたので、「ん?」と疑問に思った。

どうしてそんなことを聞くのだろう。御池から来た人が頂上を目指すのは当たり前なのに……

疑問に思ったが、「目指しているのは頂上です」と答えるのも何だかおかしいし、そのときは頂上の名前の読み方もわからなかったから、頭が混乱したまま「もうちょっと先です」と答えた。

その答えを聞いて、その人は不思議な顔をしたが、そのまますれ違った。

 

また歩き始めたが、何かがおかしいと思いはじめた。

頂上がありそうな方向を見上げても何もある気配がない。

「くそっ」

億劫だったが、懐のなかに仕舞っておいた地図を取り出した。

雨に濡れないように体を丸めて、地図にコンパスを当ててみる。

コンパスの針がまったく違う方向を向いていた。

その意味が一瞬理解できなかったが、「やっぱりそうか」と気付いた。

針は90度違う方向に頂上があると示している。私は俎嵓のピークからまっすぐ進んでしまったが、本来はそこで右に折れないといけなかったのだ。

ため息をついて、後戻りした。

俎嵓に戻り、もう一度標識を確かめる。しかし、やはり矢印は曖昧な方向を指していて正しい進行方向がわからなかった。

再度、地図で方角を確かめて、進むべき道を探す。すると、斜面を下るもう一つの道を見つけた。

その先を見上げてみたが、やはり何も見えなかった。すぐ近くにあるはずの頂上が見えない。

 

方角は間違いないはず……

地図とコンパスを信じて下っていく。

さっきの人は他の登山口から入って頂上を目指しているはず。間違っていなければ、そのうち、さっきの人とも会うだろうと思った。

20分後。東北最高峰の燧ケ岳に到達した。

しかし、頂上には誰もおらず、やはり周りは何も見えなかった。

体が冷えてきたので、すぐに下山開始する。

すると、俎嵓の手前でさっきの人とまた出会った。

聞くと、御池方面に進んで8合目まで降りて方向を誤ったことに気づいて引き返してきたのだという。

お互いに頂上を目指していたが、ともに頂上を見失っていたのだった。

それを聞いて、後悔した。

もし、私が「どこに行くんですか?」と聞かれたときに、「頂上ですけど……」と疑問に思いつつも答えていたら、ふたりとも道を誤らなかったのに。

 

 

燧ケ岳とガス

 

その人は、この後至仏山まで歩くのだそうだ。

後で地図を見たが、おそらく途中にある「見晴らし」というところでキャンプするのだろう。「そういう歩き方があるだな」と新鮮に思った。

 

雨と登山

池塘と雨


雨の登山ではいつも多くの反省点が浮かぶ。

雨が降っていると、行動が制限されるからだ。

道具を濡らしたくなかったり、手がかじかんで思うように動かせなかったりする。

地図を見るのが億劫だったり、行動食が食べづらかったり、スマホでGPSが見れなかったり、写真を撮ることも難しくなる。

今回は雨に濡れて、愛用していたコンデジ『LUMIX LX5』を壊してしまった。思い出の詰まったカメラだった。

 

下山したあと、すぐに体を温めることも大切だ。

たとえば、ストーブでお湯を沸かすのではなく、あらかじめ魔法瓶に入れておいたお湯を鍋に入れて指を温めたり、あるいはペットボトルに入れて湯たんぽにしたり。化繊の手袋よりも、ウールの手袋にしたり。予備の靴を用意したり。

 

いかに体や道具を濡らさずに登山をするのか。

濡れてしまったときにどう対処するのか。

 

どんなに雨が嫌でも、やっぱり雨の日の経験は雨のときにしかできないよなと思ったりもした。

 

燧ケ岳と木道

 

駐車場についてからは、インスタントラーメンを作って一息ついた。

再度、檜枝岐村を目指す。

車で走っていると、雨に濡れた紅葉が息をのむほど美しかった。

日帰り温泉の『燧の湯』に入る。

体が温まり、完全復活した。外に出ると、雨が止んでいた。

(2017年10月13日)