霧に包まれた『裏銀座』縦走路を3日間歩き、槍ヶ岳山荘のテント場に到達。その日の夕方に晴れ間が出て、槍ヶ岳はその研ぎ澄まされた頂を見せてくれました。
翌朝、僕は槍ヶ岳山荘から『表銀座』の縦走路に入りました。
澄んだ青空と、もくもくと沸き立つ雲。白い石の登山道をカラフルな登山客が闊歩する。
まさに、僕が夏山に抱いていたイメージそのままの北アルプスが待っていました。
東鎌尾根を行く
槍ヶ岳のテント場に到着すると、千丈乗越で出会ったおじいさんが「おう」と手をあげて迎えてくれた。僕と同じで少し会話が苦手な様子なのに、わざわざやって来てくれたことが嬉しかった。
おじいさんは健脚のベテランだった。
昨夜から気になっていることを聞いてみた。というのは、『山と高原地図』に、「東鎌尾根、ハシゴ、クサリ、階段の連続 滑落落石に注意」と書いてあったからだ。もし、東鎌尾根に危険な箇所が多いようなら、ルートを変更して上高地に降りようと思っていた。
すると、「今日歩いてきたところと変わらないよ」とのこと。
実際に東鎌尾根を歩くとおじいさんの言っていた通りだった。長いハシゴ場があったり、注意が必要な岩稜帯が続いたが、無事に通り抜けることができた。
『裏銀座』と『表銀座』の印象
何度か出会った女性は、「思ったより、きつい……」とぼやいていた。
僕の印象も同じだった。アップダウンはあるし、岩稜帯では怪我をしないように気を遣うから消耗する。
でも、きついけれど、疲れが体に溜まりに溜まって、最後には「もう一歩も足が動かない」というような疲れ方はしなかった。
その理由のひとつは、歩いている人が多いという安心感あったから。そしてもう一つは、道中の景色が最初から最後までずっと美しいからだった。
僕にとっての『裏銀座』と『表銀座』は、「きついけれど、安心して歩ける美しいハイキング道」だった。
夏の北アルプスを満喫
何度も立ち止まって後ろを振り返り、槍ヶ岳を眺める。
もう槍ヶ岳は遠くにある。
槍ヶ岳の頂付近は雲が形を変えながら流れている。それに続く峰々は裾野を大きく広げ、堂々と鎮座していた。
歩いてきた道を辿っていくと、こんなに遠くまで歩いてきたことに驚く。
こんな道を歩けるなんて幸せだ。