天幕ほしぞら

テントに泊まる登山とロングトレイルの旅

夏の北アルプス!『裏銀座&表銀座4泊5日テント泊縦走』

夏の槍ヶ岳

 

 

霧に包まれた『裏銀座』縦走路を3日間歩き、槍ヶ岳山荘のテント場に到達。その日の夕方に晴れ間が出て、槍ヶ岳はその研ぎ澄まされた頂を見せてくれました。

 

翌朝、僕は槍ヶ岳山荘から『表銀座』の縦走路に入りました。

澄んだ青空と、もくもくと沸き立つ雲。白い石の登山道をカラフルな登山客が闊歩する。

まさに、僕が夏山に抱いていたイメージそのままの北アルプスが待っていました。

 

 

東鎌尾根を行く

槍ヶ岳のテント場に到着すると、千丈乗越で出会ったおじいさんが「おう」と手をあげて迎えてくれた。僕と同じで少し会話が苦手な様子なのに、わざわざやって来てくれたことが嬉しかった。

 

おじいさんは健脚のベテランだった。

昨夜から気になっていることを聞いてみた。というのは、『山と高原地図』に、「東鎌尾根、ハシゴ、クサリ、階段の連続 滑落落石に注意」と書いてあったからだ。もし、東鎌尾根に危険な箇所が多いようなら、ルートを変更して上高地に降りようと思っていた。

 

すると、「今日歩いてきたところと変わらないよ」とのこと。

実際に東鎌尾根を歩くとおじいさんの言っていた通りだった。長いハシゴ場があったり、注意が必要な岩稜帯が続いたが、無事に通り抜けることができた。

 

東鎌尾根のハイカー

東鎌尾根を行くハイカー

東鎌尾根のハシゴ

東鎌尾根のハシゴ

東鎌尾根のハイカー

 

『裏銀座』と『表銀座』の印象

何度か出会った女性は、「思ったより、きつい……」とぼやいていた。

僕の印象も同じだった。アップダウンはあるし、岩稜帯では怪我をしないように気を遣うから消耗する。

でも、きついけれど、疲れが体に溜まりに溜まって、最後には「もう一歩も足が動かない」というような疲れ方はしなかった。

その理由のひとつは、歩いている人が多いという安心感あったから。そしてもう一つは、道中の景色が最初から最後までずっと美しいからだった。

僕にとっての『裏銀座』と『表銀座』は、「きついけれど、安心して歩ける美しいハイキング道」だった。

 

表銀座の稜線を行くハイカー

稜線を行くハイカー(右下)

表銀座のハイカー

稜線を行くハイカー

ハイマツ

物資を山小屋に運ぶヘリ

雷鳥の親子

雷鳥の親子

 

夏の北アルプスを満喫

何度も立ち止まって後ろを振り返り、槍ヶ岳を眺める。

もう槍ヶ岳は遠くにある。

槍ヶ岳の頂付近は雲が形を変えながら流れている。それに続く峰々は裾野を大きく広げ、堂々と鎮座していた。

 

歩いてきた道を辿っていくと、こんなに遠くまで歩いてきたことに驚く。

こんな道を歩けるなんて幸せだ。

 

常念岳方面の稜線

常念岳方面を望む

槍ヶ岳とイルカ岩

槍ヶ岳とイルカ岩

(2019年7月30~31日) 

 

今回の北アルプス縦走で使用した装備・持ち物まとめへ 

ヤリはどこだ?『裏銀座&表銀座4泊5日テント泊縦走』

槍ヶ岳からの眺望

 

 

北アルプスの縦走路である『裏銀座』と『表銀座』のハイライトは槍ヶ岳です。

しかし、『裏銀座』を歩き始めた初日に霧に包まれてしまった僕は、しばらく視界の限られた登山道を歩いていたので、「槍ヶ岳を見ながら歩ける登山道」だということをすっかり忘れていました。

でも3日目になって、今日の宿泊地が槍ヶ岳山荘であると気付いてからは、槍ヶ岳の存在が気になり始めました。

 

 

裏銀座3日目

硫黄岳

 

3日目の午後になって、晴れ間が見え始めた。赤く輝く山肌が美しい硫黄岳(標高2554m)。

 

裏銀座からの眺望

 

どれが槍ヶ岳だろう?

もうそろそろ槍ヶ岳が見えてもいいはずだが、それらしき山がない。槍ヶ岳がどんな形なのかを知らないことにいまさら気付いた。

 

ヤリはどこだ?

槍ヶ岳はどこなんだ……。

30分に一度ぐらいの間隔で人とすれ違うものの、人見知りの性格のせいで尋ねることが出来ないままズルズルと歩き続けていた。

このままでは槍ヶ岳の姿を見ないまま終えてしまう……。

千丈乗越についた僕は、ちょうど同じタイミングで出立しようとしていたおじいさんに尋ねてみことにした。

 

「あの……、すいません。槍ヶ岳ってどれでしょうか?」

 

おじいさんは「これだよ」とあごをしゃくって、目の前の傾斜を指す。目の前にはライトグレーの大きな角ばった岩がゴロゴロしている斜面があった。

そして上を見上げ、晴れ間に顔を出している岩の塊を指差した。

「あれはニセ、こっちの見えないのがヤリ」

やっぱり背が高いから雲がかかって見えなかったんだ。それにしても、その高さがどこまであるのか想像できない。

 

「あの……、この上に小屋があるんですか」

「あるよ」

 

「こんな上に小屋が建ってるんですか?すいません、北アルプス、初めてなので……」

「うん、ある」

 

この岩だらけの急斜面の上に小屋が建っているなんて。今まで通過してきた小屋とは明らかに違う高度だ。頭には岩山に立つチベット、ラサの寺院やドラゴンボールの神様の神殿が思い浮かんだ。

 ……それって、雲の上じゃないか。

 それと同じ場所に今夜泊まるテント場があるのかと思うと背筋が寒くなった。

 

「みんな途中まで元気に行くんだけど、最後のギザギザでへばるんだ」

おじいさんはあめ玉を舐めながら、「じゃあ」と言ってスタスタと登り始めた。

僕はザックを地面に下ろし、おじいさんが座っていた場所に腰を下ろした。半ば放心状態で行動食のナッツを取り出し、おじいさんの後ろ姿を見守る。おじいさんは軽やかにその斜面を登っていき、やがて雲のなかに消えて見えなくなった。

 

槍ヶ岳の登山道

 

「これが、ヤリ」

見えているのは頂上ではない。

 

槍ヶ岳の登山道

 

他のルートから頂上を目指す登山者。ジグザグの登山道を蟻のような登山者が歩いている。

 

西鎌尾根


登ってきた道を振り返る。ここまでも充分に高い山を登っていたのに、それを越えて高度を上げていく。

なぜか涙が出てきた。憧れたことなんて無いのに。

 

槍ヶ岳山荘とテント場

急なガレ場を登る。おじいさんは、「皆へばるんだ」と言ってたけど、気分が高揚しているせいか疲れを感じない。

そして、40分ほど登ると、崖の上にちょこんと乗っかっている槍ヶ岳山荘が見えた。山荘付近は雲が流れていて、一瞬見えたかと思うと、すぐに雲に隠れてしまう。槍ヶ岳の頂上もいまだにどこにあるのかわからなかった。

 

そして、山荘が目と鼻の先になったところで、突然槍ヶ岳の頂上が姿を現したのだ。

 

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突然現れた槍ヶ岳とその頂上に立つ登山者

 

槍ヶ岳山荘とテント場

 

(左上・右上)槍ヶ岳山荘。賑やかで華やかだった。長椅子に座ってコーヒーを飲んだり、輪になって談笑したり。それぞれの時間を過ごす。

(左下)殺生ヒュッテを見下ろす。稜線にはヒュッテ大槍も見える。

(右下)岩に張り付いたようなテント場。風強し。

 

山頂に到着して頂上が見えていたのは1時間ほど。その後は雲に包まれ、雨が降り出した。

その時点で山頂に登るのは諦めた。

 

日が暮れかかった頃に雨がやみ、また人がポツリポツリと外に出てきた。

 

槍ヶ岳と夕日

 

槍ヶ岳で、たそがれる人多数。

そんな場所はそれほどない。

 

翌朝の槍ヶ岳

翌朝、3時起床。5時にテントを畳み終える頃には晴れていた。

今回は登頂せずに先に進むことを覚悟していたが、急遽、山荘でヘルメットをレンタルした。

頂上へ向かってハシゴやクサリ場をよじ登る。かなりの高度があって心臓がバクバクした。

槍ヶ岳(標高3180m)は日本で5番目に高い。僕にとって初めての3000m峰になった。

 

槍ヶ岳のクサリ場

槍ヶ岳とブロッケン現象

頂上から槍ヶ岳山荘を見下ろす。雲に投影された『ブロッケン槍ヶ岳』。

(2019年7月29日)

 

求めていた夏山がそこに! 4~5日目へ

霧の裏銀座『裏銀座&表銀座4泊5日テント泊縦走』

『裏銀座』と『表銀座』

 

この夏は、信越地方の山々を歩き回っていました。

約3週間という時間は、社会人にはなかなか獲得できない時間です。なので、夏休み前には、その時間をいかに有効に楽しむかに苦心しました。

 

僕が最初に向かうことにしたのは長野県の大町です。

そこには『裏銀座』と『表銀座』という北アルプスを代表する縦走路がありました。

2019年の夏は、少し欲張って、その2つの縦走路を繋げていっぺんに回ることにしたのです。

 

旅の計画は『山と溪谷 2019年5月号 』の特集を参考にしました。

烏帽子小屋、三俣山荘、双六小屋、槍ヶ岳山荘、大天荘。

五つの山小屋にあるテント場を点々としながら約46kmを5泊6日で歩く計画です。でも、実際歩いてみると、3泊目の双六小屋には午前中に着いてしまったので急遽素通りし、4泊5日で歩くことができました。

 

 

裏銀座と表銀座縦走の地図

 

霧の『裏銀座』縦走路を行く

前日に車中泊をして、信州入り。やはり関西から信州はちょっと遠かった。

翌朝、信濃大町駅からタクシーに乗って登山口のある高瀬ダムへ向かう。

「いよいよ、初めての北アルプスだ」と胸が高鳴ったが、そのドキドキの中身のほとんどは緊張感。アルプスでは普段は考えられない状況に陥るかもしれないし、靴やテントというような、いつも使っている道具が北アルプスに通用するのかどうかが大きな不安だった。

 

ブナ立尾根と登山者


登山口からは『ブナ立尾根』に取りつく。

『ブナ立尾根』は『日本三大急登』の一つで、登山口の1330mから烏帽子小屋の2550mまで一気に高度をあげていく。

ちなみに、『日本三大急登』の残り二つは甲斐駒ヶ岳の『黒戸尾根』と谷川岳の『西黒尾根』だ。また、『ブナ立尾根』は『北アルプス三大急登』の一つにも数えられていて、残りの二つは剱岳の『早月尾根』と今回の下山ルートである『合戦尾根(燕岳)』になる。初めての北アルプスで二つの急登って、ちょっぴりM過ぎだったかも(笑)

午後から雨予報で、途中からガスに包まれた。高山といえども、蒸し暑く、すぐにTシャツになった。

 

烏帽子小屋に到着した僕は、ザックをデポして烏帽子岳に向かった。

「デポ」は、初心者には聞き慣れない言葉だ。デポとは、これから進むルートとは別方向に寄り道したいピークがあるときに、その分岐にザックを置いて行くことをいう。身軽になるので、その往復時間が短縮できるのが利点だ。また、ピークの直前でデポして、体力的な負荷を軽減させる目的でも行われる。

しかし、今回は何も持たずに出発したが、その帰りに雨が降り出してしまい登山道を走るはめになってしまった。

 

烏帽子小屋の軒先で雨宿りしていると、雨は本降りに。

同じ時間帯に登ってきた人の多くは、烏帽子小屋でのテント泊を諦めたようだった。翌朝、濡れたテントを畳みたくないという気持ちはよくわかる。そして、この先の野口五郎小屋まで歩いて小屋泊まりにするとのこと。雨のうちに歩いて距離を稼ぐ戦略だろうか?その辺は聞けずじまいだった。

僕はお金を節約したいので、1日目は予定通りに烏帽子小屋でテント泊した。

 

霧の稜線

 

ガスのなかを行くハイカー

裏銀座の雪渓

裏銀座のハイカー

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烏帽子小屋のテント場

 

北アルプスの高山植物

2日目の朝も霧。

びしょ濡れのテントをザックに詰め込んで、うつむいて、歩きはじめた。

 

足元を見つめて、いろんなことを考える。

考え事に費やす時間は嫌いではない。でも、そのうち同じことをリピートするようになる。

そして、思考停止。

 

登山道の分岐を通りかかったら、「こういうときこそお花をじっくりみるのよ」という女性二人組の会話が聞こえた。

なるほど、確かにそうだ。

 

実は、僕は花の写真はたまに撮るけれど、その名前はさっぱりわからないし、じっくりと眺めることもなかった。

この花は何という名前だろう。

立ち止まってのぞき込むと、「花って宇宙みたいだな」と思った。

 (名前を調べてみました。間違っていたらごめんなさい。)

 

イワギキョウ

イワツメクサ

イワベンケイ

コバイケイソウ

カラマツソウ

コマクサ

 

高山植物(こうざんしょくぶつ)とは、一般には森林限界より高い高山帯に生えている植物のことを指す。

高山に生育するから高山植物と呼ぶわけではない。例えば、北海道の礼文島や利尻島では森林限界が低いため、北アルプスで標高2,500メートル付近に生育している高山植物を平地や海岸近くでも見ることができる。

引用元:高山植物(Wikipedia)

 

山荘と食事

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2日目の宿泊地、三俣山荘。3日目までの天候はこんな感じでした。

 

山小屋の楽しみのひとつは食事だろう。

三俣山荘では『ジビエシチュー』が人気だ。山小屋での食事の経験がなかった僕も、今回はチャレンジしてみるつもりだった。

しかし、いざ2Fにある食堂の階段を上って中の様子を窺っていると、思いもよらない気持ちが……。

「ここで『ジビエシチュー』を食べたら負けじゃない?」

だって、食料計画を立て、買い出しをして、辛い思いをしてここまで食料を背負ってきたのだ。ここでちゃんと食べてザックの重量を減らすべきではないか。そうでないと、明日も明後日もその食料を背負うことになってしまう。

 

……無念。

(2019年7月27・28日)

 

裏銀座のハイライト、槍ヶ岳が見えない 3日目へ