モノを捨てて人生をリセットする
すべてを捨て去り、人生を一度リセットしたいという衝動に駆られることがある。
リセットしたところから何かが始まるような気がするからだ。
まず手をつけるのは部屋にあふれたモノだろう。モノを捨てて身軽になりたい。
その勇気をもらうために、映画『365日のシンプルライフ』をもう一度観た。
『365日のシンプルライフ』を観た
『365日のシンプルライフ』の主人公の名前はペトリ。
モノが大好きな男ペトリは、彼女に振られたことをきっかけに、自分の持ち物をすべてリセットすることにした。
モノが溢れる部屋にいても、ちっとも幸せではないことに気付いたからだ。
ペトリは、自分の持ち物をすべてレンタル倉庫に預ける。
そして、毎日ひとつだけ「自分にとって必要なモノ」を倉庫から持ち帰る実験をはじめた。
ルールは4つ。
Rule 1. 自分の持ちモノ全てを倉庫に預ける
Rule 2. 1日に1個だけ倉庫から持って来る
Rule 3. 1年間、続ける
Rule 4. 1年間、何も買わない
文字通り裸一貫にリセットしての出発だ。
何一つモノがない薄暗いアパートの部屋。冒頭の画面に一糸まとわぬ姿になって登場する。
その夜、ペトリは最初のモノを取りにアパートを出た。
フィンランドの夜は凍るような寒さだろう。しかし、ペトリは裸だ。アパートから倉庫まで、雪のなかを真っ裸で疾走した。いま一番必要なモノを得るために……。
誰が見てもマヌケなペトリ。自暴自棄になった悲しい男。
友人たちは、ペトリは頭がおかしくなったのではないかと疑った。
すべてを捨て去り旅立つ男は滑稽に見えるものかもしれない。「アイツは何をしているのだ」と笑う者もいただろう。
しかし、ペトリは幸せを見つけるために真剣だった。
ペトリはそうして毎日倉庫へ走っては、いま必要なモノを選択していく。
実験を続けるうちに、生活に必要なモノは100個くらいだと分かった。
その次の100個は生活を楽しむためのモノになった。
そして、ついには大切なものを見つけるのだった…。
最小限の部屋
ぼくが『365日のシンプルライフ』で好きなのは、ペトリの部屋と友人の部屋の対比だ。
友人の部屋には、いたって普通のモノが置かれている。ソファや置物が整理整頓されている。一方、ちょうど1時間ぐらい経ったときに映るペトリの部屋には、机に椅子、マグカップにスマホぐらいしかない。
どちらに心地よさを感じるかは人それぞれだろう。モノがあったほうが落ち着くという人もいる。
ぼくはシンプルなペトリの部屋が好きだ。
ペトリの部屋はモノが少ないから、モノの輪郭がはっきりしていて、「カタチ」が際立っている。モノが存在感を放ち、主人に使われる時を静かに待っているように見える。すべてのモノが、暮らしのなかで今まさに使用中であることを感じる。
それは、すべてのモノが活き活きと使われる暮らしだ。
その暮らしで所有するモノの量は、最小限になるだろう。
モノを最小限にするには、自分自身のことを知らねばならない。
「現在自分が何に取り組んでいるのか」、「未来に何をするのか」をすべて把握していないと最小限にはできない。
ペトリは365日間の実験のあいだ、現在と未来の自分の姿を想像し続けた。「自分に必要なモノは何か」を問いかけ続けた。
その問答のなかで自分のあるべき姿が研ぎ澄まされ、それが洗練された部屋として表れたのだと思う。
『365日のシンプルライフ』は、モノを通して人生を見直す男の物語。
人生をリセットし、新しい旅に出たいときに観たい映画だ。