天幕ほしぞら

テントに泊まる登山とロングトレイルの旅

ハイカー『大峯奥駈道』5泊6日テント泊縦走(6日目)

大峯奥駈道最終日

大峯奥駈道の旅の最終日がやってきた。

旅に出て初めての晴れだ。

 

いつものように、ラーメンと魚肉ソーセージの朝食をとる。

これで、6日間の食料をすべて平らげた。残りは今日の分の行動食と非常食だけになり、水も半日分だけを持てばいい。

バックパックはだいぶ軽くなり、16キロぐらいになったと思う。

 

午後からは夏のような日差しになった。シェルを脱ぎ、ジャージを脱ぎ、Tシャツになって歩く。

道はこれまでの厳しい山岳路とは打って変わり、穏やかな登山道になった。植生も杉とマツに取って代わった。それでも、アップダウンが連続するのは変わらない。

 

大峯奥駈道を歩くハイカー


これまで抜きつ抜かれつ歩いてきたから、知った顔があった。ほとんど言葉は交わすことはなかったが、心なしか皆、表情が明るい気がする。歩き方まで違うみたいだ。

 

熊野本宮大社へ

熊野川


熊野川が見えた!うぉー!

学生グループが歓声をあげた。

とうとうやってきたぞ、熊野に。

 

熊野川の渡渉


本来は熊野川を渡渉し、身を清めてから大斎原(おおゆのはら)へ向かうのが筋だそうだ。

大斎原は熊野本宮大社がもともとあった場所で、明治22年の水害を受けて、現在の位置に移築された。その後、大斎原には日本一大きい鳥居が建てられている。

 

川を渡るためのサンダルは軽量化のために持ってこなかった。靴を脱ぎ、素足で水にはいる。2歩目でずるっとこけて、危うく全身ずぶぬれになるところだった。

川底の石には苔がびっしりとついてめちゃくちゃすべるし、石が痛い。早々に諦めた。

 

大人しく鉄橋を渡り、そして、熊野本宮大社に到達した。

周辺は多くの観光客であふれていた。その中を大きなバックパックを背負って歩く。

恥ずかしいけど誇らしい。そんな気分だ。

鳥居前で記念写真を撮る。親切なボランティアの人に撮ってもらったが、なんだか頼りないオッサンハイカーが写ってしまった。

お参りしたら、本当のゴール。最後の力を振り絞って石段を登った。

 

満天のほしぞら

川湯野営場木魂の里


今日は、もう少し歩かなければいけない。

宿泊地のキャンプ場『川湯野営場 木魂の里』は熊野本宮大社から少々離れた場所にある。念のためにと思って、地図を印刷してきていたのが役立った。

途中のコンビニでカフェオレを一気飲みし、アイスを食べる。もう一度店内に入り、2日分の食料をゲットした。

 

川湯温泉公衆浴場


テントを張ってから、川湯温泉の公衆浴場へ行った。

風情のある温泉。6日ぶりの風呂でさっぱりした。6日も入らなかったらどうなるかと思ったが、意外と気にならないものだと思った。(他人は気にしていたかもしれないが……)

 

キャンプ場に戻る頃には日が暮れていて、各サイトにはランタンが灯り、その光が川面に反射していた。

テントに帰って、缶チューハイの栓を抜く。

見上げると、満天のほしぞらが広がっていた。

(2019年5月2日)

 

大峯奥駈道5泊6日テント泊縦走(6日目)の記録

行程/玉置神社~熊野本宮大社~川湯野営場 木魂の里

天候/晴れ

移動距離・所要時間/スマホが壊れたので記録がない

メモ/先日買ったカメラ、LUMIX GX7 MK2のレンズキャップを落とした。買ったときから落としそうなデザインだなとは思ったが……

星空『大峯奥駈道』5泊6日テント泊縦走(5日目)

雨の日のバックパッキング

雨に煙る木


朝、目を覚まして気配を伺うと、フライシートにポツポツと雨が当たる音がする。

やっぱり、雨か……

旅に出てからずっと太陽を見ていない。

『上州登山の旅』でも雨続きだったし、私は絶望的に雨男なのかもしれない……。

 

朝4時に体を起こす。

このところは大体この時間に起きて、歩く準備を始めることにしている。

 

テントは専用袋に収納したのちに、2重にしたレジ袋に入れる。シュラフも同じく2重にしたレジ袋に入れる。それらをバックパックのボトムに入れる。バックパックは2気室で使うことで、濡れたものの水が上の部屋に上がってこない戦略。

上の部屋には濡らしたくない物が入る。インナーパックは、ポリ袋70Lを使用している。

 

6時に行仙宿を出発した。

 

枝についた水滴


昼前からは、雨脚が強くなってきた。

普段の登山では天気を選べるが、連泊となると天気は選べない。

 

大峯奥駈道の案内板


案内に熊野本宮大社の文字が出てきた。

終わりが見えてきた。

嬉しい2割、嬉しくない8割。

 

難所を行く

霧の大峯奥駈道


『新宮山彦ぐるーぷ』の地図に「約6mの垂直降下」と書いてあったクサリ場に来た。

私の前を若いカップルが下りていた。バックパックの重さでズルズルとすべっている。

 

私は高所は足が震えるほど苦手なのに、クライミングにハマっていた時期がある。

その経験から言うと、岩場ではとにかく慌てないように心掛けることが大切だ。そして、「『確実』を積み重ねれば怖くない」と心で唱えてから降りるようにしている。

 

まず、両手でガッシリと何かを掴む。絶対に落ちることはないことを確認する。

そして、重要なのは足場だ。慌てずに、冷静に下を覗いて、足場がどこにあるのかを見る。足を伸ばして、体重をかけてみる。足裏で体重がしっかりと乗っている感覚を確認する。不安なら違う足場を見つける。焦って乗り込むと、不安定な足先がさらに焦りを生む。ゆっくりでいい。まだ手は疲れていない。絶対に落ちることはない。

そうやって確実な足場をひとつひとつ積み重ねていけば、意外と簡単に下りることができる。

 

大峯奥駈道のクサリ場


それでも私は高所が怖い。あとで後ろを振り返ったら、ゾッとした。

 

大峯奥駈道の長い下り


「ここからの下りは、ゆっくりと 膝故障に注意」

『新宮山彦ぐるーぷ』の地図を読んでいて一番嫌な感じがしていたのは、この区間だった。まだ旅の中盤だから、ここで膝を痛めるわけにはいかない。

実際に歩くと情報通りで、長い下りが続いた。連日の雨で泥だらけで、気を抜くとスリップする。慎重に下りていく。

 

しかし、膝はもってくれなかった。

5日目にして、とうとう膝が痛みだす。

泣きたくなった。

 

水没……

水蒸気が立つ熊野の山々


玉置神社に到着したときは、全身ずぶぬれになっていた。

レインウェアのポケットに入れていたスマホは壊れた。ポケットの中を覗くと、雨水が3センチ貯まり水袋のようになっている。思いっ切り水没させてしまった。以前の『上州登山の旅』のときも、愛用していたコンデジをポケットに入れていて壊したのに、またやってしまった。

 

レインウェアが体に張り付き、体が冷えている。

膝も、腰も、痛い。

何もかもボロボロだ。

テントを張る気力が湧いてこないが、いつまでもトイレの軒先で突っ立っているわけにはいかない。トイレ横のスペースにテントを張り始める。

 

テントに潜り込む。テントの底も当然水浸しのままだ。硬いアスファルトにビニールが張り付いているように透けている。

レインウェアは再び着ることができないぐらいに内側まで濡れてしまった。グローブもぐちょぐちょで、苔むした石や木をたくさん触ったせいで緑色になり、強烈に苔臭い。

テントに入ってザックの中身を確認すると、中にも浸水していた。

今回はザックカバーを被せて、中にはインナーバックを使用している。それでも、本格的な雨の場合は、インナーバッグの中まで湿ってしまう。インナーバッグの中に入れたナイロン袋の中でさえ湿っていた。

幸い、さらにビニール袋で包んでおいたトイレットペーパーは濡れていなかった。濡れた地図やカメラなどを乾いたペーパーで拭くことができた。

 

星空

今回はフリーズドライの食事を持っている。

モンベルの『白いご飯』にアマノフーズの『畑のカレー』をかけて食べる。

うまい。

雨で食べることができなかった、行動食も貪り食う。

温かい飯を食べると、体に生気がじわじわと湧いてきた。

隣のテントからは、「雨に濡れたものをどうするのか?」という会話が漏れて聞こえてきた。

皆、苦労してるんだな。

自分の惨めさが和らぐ。

 

夜に雨がやみ、外に出る。駐車場の真ん中に立って空を見上げると、星が出ていた。この旅で初めての星空だ。

ずっと重いバックパックを背負っていたせいで、歩き方がガニ股になっている。

 

標高1000mの玉置神社では、シュラフがいらないくらいに暖かかった。

シュラフはしめっぽかったから、ちょうど良いと思った。

(2019年5月1日)

 

大峯奥駈道5泊6日テント泊縦走(5日目)の記録

行程/行仙宿~玉置神社

天候/雨時々曇り

通過した主な山/笠捨山(標高1353m)

移動距離・所要時間/スマホが壊れたので記録がない 

フライクリークUL1EX『大峯奥駈道』5泊6日テント泊縦走(4日目)

フライクリークUL1EX

昨夜は夕方から雨が降り始め、風が強くなった。

緊張しているせいか、この3日間熟睡できていない。雨と風の音を聞いているうちに朝になってしまった。朝4時に起床する。

 

ヘッドランプを点け、雨に打たれながらテントを撤収する。

テントは完全に水浸しになってしまった。テントを丸めて体重をかけると、ぐじゅじゅ~~と水が抜けていく。

 

フライクリークUL1EX

 

私が使用しているテントは、ビッグアグネスのフライクリークUL1EX。

買ったのは随分と昔のことで、ノーメッシュの日本仕様を選んだ。

重さは約1kgで、ダブルウォールのテントとしてはかなり軽いし、小さい。特に気に入っているのは、カラーリングだ。

気に入らないのは、後部のフロアの端が浮き上がってしまうことと天井が低いこと。

 

よく見られるテントと少し違うところは、半自立式だということ。フレームはY字構造なので組み立てるだけでは自立しない。張り綱を張ってはじめて自立する感じだ。だから、組み立てた状態でもグラグラしているから、とても頼りなく感じる。

これまで風が強い状況で使ったことがなくてずっと不安だった。それが昨夜は風が少し強くなった。深仙宿は鞍部にあるので、風の通り道なのだろう。

結果は、とりあえず無事なので、こうして記事を書いている。

 

もくもくと歩くのみ

深仙宿のテント場

嵩が増え、重たくなったテントをバックパックに収納し、5:30に深仙宿を出発する。

 

ここまでの3日間は、順調だ。

普段はコースタイムで歩けないひ弱な私だが、今回は重いバックパックを背負っていても歩けている。

でも実際は、気持ちに余裕は全くない。ほとんど休みなしで歩き続けていて、歩きながら行動食を食べているような状態だ。

まさに修行……。

そして、今日も雨と横風を受けながら下を向いて斜面をよじ登る。

修行だと思えば、こんなのへっちゃらだ……

 

ミズナラの森

大峯奥駈道の登山道

 

『新宮山彦ぐるーぷ』が維持管理する持経宿に到着。

標高が下がったせいか、気温が若干上がった気がする。

これまでの森は冬のような寒々しい姿だったが、持経宿あたりの木々は芽吹いていて、つつじが薄桃色の花を咲かせている。

 

ミズナラの巨木

 

ここからしばらくは美しいミズナラの森になる。

シトシトと降る雨のなかに巨木が立つ姿は、森を守る番人のようだ。

 

 

蜘蛛の巣

 

すでに低山では虫がうるさい時期になったが、まだ虫はほとんどいない。

夏とは違い今の時期がベストかもしれない。

 

行仙宿に到着

行仙宿のテント場

 

テント場のスペースは小さく、数張でスペースは一杯になった。

目の前には展望が開けている。

小屋に入るのは抵抗があったので中は見ていない。かなり多くの人が出入りしているようだった。

 

今日も疲れた。でも、余裕も出てきた。

テントの前で、食べきれなかった行動食を堪能する。お気に入りは、今回から導入した羊羹だ。食べても喉が乾かないのがいい。

 

気温が上がっている。ダウンを上下とも着たら、シュラフは無くても眠れそうだった。

(2019年4月30日)

 

大峯奥駈道5泊6日テント泊縦走(4日目)の記録

行程/深仙宿~行仙宿

天候/雨時々曇り

通過した主な山/行仙岳(標高1227m)

移動距離・所要時間/

大峯奥駈道コースタイム4日目